自作『GM管』(20)
パルス波高を知るために、PICを利用して電圧パルスのAD変換を行い、チャンネル(5Vで1024チャンネル、1chが約5mVに相当)を液晶表示させるADコンバータを簡易的に試作しました。液晶表示は文字だけなので、カウント毎にチャンネルを筆記するという大変な作業です。
以前に紹介した密閉度を高めた自作『GM管』を使用して、プラトー領域から印加電圧を下げていったときの塩化カリウム(カリウム40)のパルス波高分布「HV.pdf」をダウンロード では、かろうじて計数がある(飽和領域に近い)印加電圧(約2600V)でもピークが分離していますが、ピークはブロードで分解能が良くありません。印加電圧を下げていくと、波高が小さくなる(チャンネルが低くなる)ため、印加電圧が低すぎるとADコンバータの精度が制約になります。今回は、その中間領域(約2400V)で、分離した(ように見える)ピークが捉えられました。
このパルス波高分布を見ると、カリウム40のピークが3本に見えます。カリウム40が出す放射線は、1.312MeVのβ線が89.3%、1.461MeVのγ線が10.7%となっています。β線は、エネルギーの一部を電子ニュートリノが持ち出すので、最大エネルギーから低いエネルギーに向かって、最大エネルギーの約1/3をピークとする連続分布となります。一方、γ線は、単一エネルギーですが、管内でエネルギーを失って、低いエネルギーのピークも作ります。シンチレーション・カウンタのパルス波高分布を参考にすると、光電効果による入射γ線のエネルギーに相当するピークと、コンプトン散乱によるブロードな分布が見られ、さらに、カリウム40のγ線のエネルギーが1.022MeVを超えていることから、電子対生成による、1.461-0.511=0.95(MeV)の(生成した電子・陽電子のうち1個が管外に出る場合の)エスケープ・ピークと、1.461-1.022=0.439(MeV)の(生成した電子・陽電子がともに管外に出る場合の)ダブル・エスケープ・ピークが見られるはずです。したがって、カリウム40の3本のピークは、1.461MeV、0.95MeV、0.439MeVに相当すると考えられます。なお、1.461MeVの主ピークが小さく見えるのは、GM管の場合は1MeV以下のエネルギーの方が高感度のためではないか、と考えています。ただし、チャンネルとパルス波高値の関係について、ゼロ点や比例関係の有無は未確認なので、現状で分かるのは大小関係だけです。
塩化カリウムとガスランタン用マントルのパルス波高分布「ene_ana.pdf」をダウンロード を約2400Vで比較すると、ピークの位置が(微妙に)違うのが分かります。ガスランタン用マントルの放射線は、トリウム232の娘核種によるものなので、単一の放射性核種ではありません。鉛212やタリウム208やビスマス212のγ線が混在していると思われますが、判別は困難です。
約2400Vの塩化カリウムで、厚さ6mmのアクリル板を用いて1.312MeVのβ線をカットした場合と、カットしない場合のパルス波高分布「WB_NB.pdf」をダウンロード を見ると、3本のγ線由来のピークに重なって、カットしない場合は、1.312MeVを最大エネルギーとするブロードなピークが、低エネルギー側に広がっているように見えます。
教科書にも載っていない方法ですが、GM管でも印加電圧を下げてパルス波高を調べれば、(ある程度は)入射放射線のエネルギー分析が可能です。
問題点は、パルスの分解能です。装置的な改善を別にすれば、パルスのカウント数を多くして、統計的な変動を減らすしか方法がありません。印加電圧や増幅器の増幅率もパルス波高に関係するので、印加電圧と増幅率とを勘案しながら、時間と手間も考えてカウント数を最適化する必要があります。現状では、バックグラウンドのような極めて弱い線源では、500カウントに1時間程度を要するので、労力も時間も掛かる状況です。少なくとも、実験の精度をある程度確保しながら、時間をできるだけ短くする工夫が必要です。計測の自動化も可能ですが、実験教室の範囲に収まるかどうかが問題になります。
*参考:AD変換・文字液晶表示回路図「CHARLCDr.JPG」をダウンロード
*参考:AD変換・文字液晶表示プログラム例「counter_adc_lcd.pdf」をダウンロード